親のサポート

試合で緊張してしまう子への向き合い方

「練習ではあんなに打てるのに、試合になると打てない」——少年野球に関わる家庭で、本当によく聞かれる言葉です。守備でも、練習のノックなら軽々さばくのに、試合の場面になると足が動かない。ひとつエラーをすると、そのあとずっと引きずってしまう。そんな様子を見ていると、親としては「どうしてあげたらいいんだろう」と悩んでしまいますよね。

ただ、ひとつだけ先にお伝えしておきたいことがあります。試合で緊張するのは、その子が真剣に野球に向き合っている証拠でもあります。どうでもいいことに、人は緊張しません。この記事では、なぜ試合だと違うのかという一般的な話から、親がどう関わるかを中心に、公的機関やスポーツ団体が公開している情報をもとに整理しました。

はじめに:この記事の立場について

当サイトの管理人はスポーツコーチングリーダー(日本スポーツ協会公認)の資格を持っていますが、医療や心理の専門家ではありません。この記事は、公的機関やスポーツ団体が公開している一般的な情報を、保護者向けに分かりやすく整理したものです。

また、この記事はお子さんの状態を判断したり、診断したりするものではありません。心の状態には大きな個人差があり、同じように見える様子でも背景はさまざまです。「うちの子はこれだ」と決めつけずに読んでいただけたらと思います。

気になる様子が続くときは、学校の先生・スクールカウンセラー・医師など、実際にお子さんに会える専門家にご相談ください。相談先については後半の章にまとめています。

「練習では打てるのに」は、とてもよくある悩みです

まず知っておいていただきたいのは、この悩みが決してめずらしいものではないということです。ジュニア世代のスポーツを扱う記事や相談の場では、「練習ではうまくできるのに本番になると力が出せない」という保護者の声が繰り返し取り上げられています。野球にかぎった話でもなく、サッカーでも、テニスでも、あるいはピアノの発表会でも、同じ悩みは語られます。

ここには、少しだけ心強い意味があります。あなたのお子さんだけに起きていることではないということです。「うちの子は本番に弱いのかもしれない」と感じている親御さんは、たぶん想像よりずっと多くいます。

「練習と試合は、そもそも違うもの」という前提

もうひとつ、当たり前すぎて見落とされがちなことがあります。練習と試合は、同じ野球でも中身がかなり違います。

こう並べてみると、「練習ではできるのに試合ではできない」というのは、ある意味では自然な現象だとも言えます。練習でできることが試合でそのまま出せるなら、プロ野球の選手だって毎打席ヒットを打っているはずです。

「緊張しているから打てない」とは限りません

大人はつい、打てない理由を心の問題に結びつけがちです。でも実際には、投手のレベルが上がった、球が速い、変化球に慣れていない、疲れがたまっている、体が大きくなってバランスが変わったなど、技術や体のほうに理由があることも十分に考えられます。「メンタルの問題」と早合点する前に、他の可能性も一緒に見てあげたいところです。

なぜ試合だと違うのか——一般に言われていること

ここからは、スポーツ心理学の分野で一般的に説明されている考え方を紹介します。すべての子どもに当てはまるわけではありませんが、「そういう仕組みがあるらしい」と知っておくだけでも、見え方は変わってきます。

体が「危険」に備えようとする反応

日本大学スポーツ科学部が公開しているコラムでは、本番で「あがる」という状態について、もともと人間に備わっている危険を察知したときの反応(闘争・逃走反応)と関連づけて説明されています。命の危険がなくても、「失敗したらどうしよう」という不安のシグナルに体が反応してしまい、それが強く出すぎた状態が「あがり」だ、という説明です。

心臓がどきどきする、手に汗をかく、体がこわばる——こうした変化は、その子の性格の問題というより、体に元から備わっている仕組みが働いた結果だと考えられているわけです。ここは、親として覚えておく価値のある視点だと思います。

「見られている」という感覚

試合には観客がいます。ベンチのチームメイトも、相手チームも、そして保護者席の親も見ています。人に見られている状況で普段どおりに動くのが難しくなるのは、大人でもよくあることです。会議で急に指名されて頭が真っ白になる、あの感覚に近いのかもしれません。

とくに子どもの場合、「うまくできたところを見せたい」という気持ちと、「失敗するところを見られたくない」という気持ちが、同時に強く働くことがあります。応援してくれている人が多いほど、それが重みになることもあります。

「失敗できない」という思い

ここも大きいところでしょう。三振したら負けるかもしれない、エラーしたら点が入るかもしれない。自分のプレーが結果に直結するという感覚は、練習にはないものです。

日本スポーツ協会(JSPO)は「NO!スポハラ」という活動を進めており、その保護者向けセミナーの報告では、勝利至上主義の雰囲気が強い現場では、保護者もその空気に引きずられて「もっと頑張らせなければ」となってしまいがちだという趣旨の指摘がされています。子どもが感じている「失敗できない」というプレッシャーは、必ずしも子ども自身が作り出したものとはかぎらない、ということです。

いつもと環境が違う

試合は、練習とは環境そのものが違います。会場が違う、グラウンドの土が違う、審判がいる、アナウンスがある、朝が早い、移動で疲れている——こうした細かい違いの積み重ねも、いつもの動きを出しにくくする要因になり得ます。

とくに試合当日は、生活リズムがふだんと変わりやすい日でもあります。朝ごはんの時間や量、試合の合間の補食なども、体の調子を通じて集中力に関わってくる部分です。このあたりは試合当日の食事スケジュールでまとめていますので、「そういえば当日の食事は行き当たりばったりだったかも」という方は、あわせてご覧ください。

緊張は「悪いもの」ではありません

この記事でいちばんお伝えしたいのが、この章です。

「緊張しないようにさせたい」「本番に強い子にしたい」——親としては自然な願いです。ただ、緊張そのものをゼロにするという考え方は、あまり現実的ではありません。

適度な緊張は、集中につながるとされています

スポーツ心理学には「逆U字理論」と呼ばれる、よく知られた考え方があります。前出の日本大学スポーツ科学部のコラムでも紹介されているもので、おおまかに言うと次のような関係です。

心と体の状態 パフォーマンスの傾向(一般的な説明)
まったく緊張していない・だらけている 力が出にくいとされる
ほどよく緊張している 集中しやすく、力を出しやすいとされる
緊張しすぎている 体がこわばり、力が出にくくなるとされる

グラフにすると山の形(逆さのU字)になることから、この名前で呼ばれています。同コラムでも、適度な緊張は身体能力を高めたり集中力を高めたりするのに有効である一方、過度な緊張はマイナスに働くという説明がされています。

つまり、目指すところは「緊張をなくす」ではなく「緊張と付き合う」ということになります。これは、子どもに伝えるときの言葉としてもかなり大事だと思います。

「緊張してるの? 大丈夫、みんなするよ」

緊張している子に「緊張するな」と言うのは、なかなか難しい注文です。それよりも、「緊張してるんだね」といったん受け止めるほうが、子どもは楽になることがあります。緊張を「なくすべき悪いもの」として扱わない——それだけでも、子どもが自分の状態を隠さずに話しやすくなります。

「メンタルが弱い」という言葉は使わないでほしい

これは、この記事の中でも強くお願いしたいところです。

「メンタルが弱い」という言い方は、子どもにとって逃げ場のない評価になってしまいます。技術なら「まだ練習中」と言えますが、「弱い」と言われた性格は、子どもからすると自分ではどうにもならないものに感じられます。しかも一度そう言われると、次に緊張したときに「やっぱり自分は弱いんだ」と、自分で自分を追い込む材料になりかねません。

くり返しになりますが、緊張は真剣さの裏返しでもあります。どうでもいい試合なら、その子は緊張しません。緊張しているということは、うまくやりたいと思っているということです。そこは、まず認めてあげたいところです。

親がついやってしまいがちな関わり方

ここでは、よく話題にのぼる「親の関わり方」を取り上げます。ただし、最初にはっきりさせておきます。

これは、親を責めるための章ではありません

ここに挙げることは、どれも子どもを思うからこそ出てくる言葉や行動です。上手になってほしい、悔しい思いをしてほしくない——その気持ちがあるからこそ、つい口が出てしまう。それはごく自然なことだと思います。ここでは「気をつけたい傾向」として読んでいただき、当てはまっても、どうか自分を責めないでください。

まず結果を聞いてしまう

試合から帰ってきた子に、「今日どうだった?」「打てた?」と聞く。ごく自然な会話ですが、これが毎回だと、子どもの中で「親が関心を持っているのは結果なんだ」という受け取り方が育っていくことがあります。

そうなると、打てなかった日は家に帰るのが少し気まずくなります。結果が悪い日ほど話しづらくなる、というのは、子どもにとって案外つらいものです。

他の子と比べてしまう

「◯◯くんはもう試合に出てるよ」「あの子は打てるのにね」。比べる言葉は、たとえ励ますつもりでも、子どもにはそのまま「自分は足りない」と届きやすいものです。

ましてや、成長のペースは子どもによって本当に違います。体の発達も、技術がかみ合う時期も、みんなばらばらです。他の子との比較は、その子の伸び方を測る物差しとしてはあまり役に立ちません。

帰りの車の中で反省会をしてしまう

ジュニアスポーツの現場でよく指摘されるのが、この「車の中の反省会」です。試合が終わって、車に乗って、そこから振り返りが始まる。悪気はまったくないのですが、子どもからすると逃げ場のない密室で、疲れきった状態で反省を求められることになります。

試合直後は、子どもの気持ちがいちばん揺れている時間帯でもあります。悔しさや疲れが残っているところに技術的な指摘が重なると、話の中身がどれだけ正しくても届きにくいでしょう。公益財団法人スポーツ安全協会が公開している資料でも、心がいっぱいになっている状態にアドバイスを足すことは避け、まず話を受け止めるべきという趣旨のことが述べられています。

期待を口にしすぎてしまう

「今日はレギュラー取れるといいね」「次の試合でホームラン打てそうだね」。応援のつもりの言葉が、子どもにとっては「応えなければいけない期待」になることがあります。

とくに、親が野球経験者だったり、熱心に応援してくれていたりする場合、子どもは「がっかりさせたくない」と強く思うことがあります。その気持ち自体は温かいものですが、打席に立つときの重荷になってしまうと、本末転倒です。

グラウンドから技術的な指示を出してしまう

試合中に保護者席から「もっと前に出ろ」「振れ!」と声が飛ぶこともあります。ただ、指導者の指示と親の指示が食い違うと、子どもはどちらを聞けばいいのか分からなくなります。試合中の声かけについては少年野球の試合での親の声かけ・応援マナーで詳しくまとめていますので、あわせてご覧ください。

親にできる関わり方——結果ではなく「取り組み」を見る

では、どう関わればよいのでしょうか。ここも「これが正解」というものはありませんが、公的な立場から共通して語られている方向性はあります。

結果ではなく、取り組みのほうを見る

先ほど触れたスポーツ安全協会の資料「スポーツパフォーマンスを高める、子どものメンタルヘルスとは」(監修:国立精神・神経医療研究センターの小塩靖崇氏)では、ミスや結果ではなく、取り組みのプロセスとその子の強みを認めることが挙げられています。また、勝ち負けの二項対立に陥らないようにという指摘もされています。

具体的には、たとえばこんな見方になるでしょうか。

結果は、相手投手のできや守備のポジショニングなど、自分ではどうにもならない要素にも左右されます。一方で、取り組みの部分は、その子自身がコントロールできる範囲です。そこを見てもらえていると分かることは、子どもにとって支えになり得ます。

まず「聴く」。アドバイスはそのあと

同じくスポーツ安全協会の資料では、周囲の大人の対応としてもっとも大切なこととして「まっすぐに話を聴くこと」が挙げられています。心がいっぱいの状態にアドバイスを追加するのではなく、まず受け止める、という順番です。

日本オリンピック委員会(JOC)が開いたジュニアアスリート保護者向けセミナー(令和4年度第2回、2022年12月)でも、総括として「保護者が子どもを認めること、話を聞いて寄り添うこと、最大の応援者になること」が大切だという趣旨のまとめがされています。同セミナーでは、親の関わりを「ティーチングからコーチングへ」——教え込むのではなく、認めて任せる方向へ移していくことの重要性も語られています。

家では、野球の話を持ち出しすぎない

これは、意識しないと難しいところかもしれません。

前出のJOCのセミナーでは、登壇したオリンピアンから、親が競技面に過度に干渉せず、生活面のサポートに徹してくれたことが心地よかったという趣旨の話も出ています。トップアスリートの話がそのまま少年野球に当てはまるわけではありませんが、「家は野球から離れられる場所」であることの価値は、共通して考えてよさそうです。

家に帰ってからも野球の話ばかりだと、子どもは一日中野球のことを考え続けることになります。ごはんを食べて、笑って、まったく関係ない話をする。そういう時間があるからこそ、次の週末にまた向かえるという面もあるでしょう。

子どもが話したいときに、聞く

逆に、子どものほうから野球の話をしてきたときは、それが話したいタイミングです。「聞くよ」という姿勢でいられると、子どもは自分のペースで話せます。

試合直後は黙っていたのに、夜のお風呂や寝る前になって急に話し出す、ということもあります。そのときに「もう寝る時間だから」と切ってしまうと、次から話しにくくなるかもしれません。タイミングは子どもが決めるくらいのつもりでいると、お互いに楽になる気がします。

「何が楽しかった?」という聞き方

スポーツ安全協会の資料では、「楽しそうだね、何が楽しかったの?」といった声かけによって、子ども自身が楽しさを言葉にできる環境をつくることがすすめられています。「どうだった?」だと結果の報告になりがちですが、この聞き方なら、結果に関係なく答えられます。今日の帰り道から、ひとつ試してみてもいいかもしれません。

失敗を責めない

当たり前のようでいて、いちばん難しいところかもしれません。とくに、その失敗が試合を左右したときは、親のほうも感情が動きます。

ただ、いちばん悔しいのは、たいていの場合その子自身です。すでに十分に落ち込んでいるところに追い打ちをかけても、次につながるものはあまり生まれません。技術的に直すべきことがあるなら、それは日をあらためて、落ち着いたときに、あるいは指導者の方に任せるという選択もあります。

子ども自身ができる工夫

ここでは、子ども自身が試せる工夫を紹介します。ただし、大前提としてお断りしておきます。

「これをやれば緊張しなくなる」とは書きません

緊張の感じ方や、何が助けになるかには大きな個人差があります。ここで紹介するのは一般によく紹介されている工夫であり、効果を約束するものではありません。合う子もいれば、合わない子もいます。

また、これらを親が「やりなさい」と課してしまうと、新しいプレッシャーになってしまうことがあります。「こういうやり方もあるらしいよ」と伝えて、やるかどうかは子どもに任せる——そのくらいの距離感がよいのではないでしょうか。

ゆっくり呼吸する

もっともよく紹介されるのが呼吸です。厚生労働省が公開しているセルフケアの資料などでも、心身の緊張をゆるめる手軽な方法のひとつとして腹式呼吸が紹介されています。息をゆっくり吐くことを意識する、という考え方が一般的です。

子どもに伝えるときは、難しい説明よりも「打席に入る前に、ふーっと長く吐いてごらん」くらいのシンプルな言い方のほうが伝わりやすいかもしれません。うまくいかなくても構いません。「やってみたけどダメだった」となると、それ自体が新しい失敗体験になってしまうので、軽く伝えるのがよいと思います。

いつもと同じ準備の手順を持つ(ルーティン)

前出の日本大学スポーツ科学部のコラムでは、あがりへの対処のひとつとしてルーティン(競技前の決まった動作の習慣)を確立することが挙げられています。心理的な安定につながるという説明です。

プロ野球選手が打席で同じ動作をくり返すのを見たことがあるかもしれません。あれと同じ発想です。少年野球なら、たとえば次のようなものでしょうか。

ポイントは、「立派なルーティンを作ること」が目的ではないということです。いつもと同じことをすることで、試合という特別な場面に「いつもどおり」の要素を持ち込む、という考え方です。子どもが自分で決めた小さな手順のほうが、たぶん長続きします。

小さな目標を持つ

「今日はヒットを打つ」という目標は、実は自分だけでは達成できません。相手投手次第の部分が大きいからです。達成できないと、それが失敗体験になってしまいます。

一方で、自分でコントロールできる目標なら、結果に関係なく「できた」と言えます。

こうした目標は、ヒットが出なかった日でも達成できます。そして達成できたことを親が拾ってあげられると、子どもにとっては「今日もできたことがあった」という日になります。

練習の中に、少しだけ試合の要素を入れる

技術面の話になりますが、練習が「打ちやすい球を打つ」ばかりだと、試合との差が大きくなりやすいと言われます。紅白戦のような実戦形式や、投手が本気で投げる打撃練習など、少し緊張感のある場面を練習の中で経験しておくことが、慣れにつながるという考え方です。

ただし、これはチームの練習方針に関わる部分です。家庭で勝手に負荷を上げるより、気になるようなら指導者の方に相談するのが安心でしょう。家での練習の考え方については少年野球のバッティングが上達するコツや子どもの自主練を「続ける」コツと習慣化のやり方もあわせてご覧ください。

エラーや三振を引きずってしまうとき

「一度ミスをすると、そのあとずっと引きずってしまう」——これも、非常によく聞く悩みです。

ミスのあとに気持ちが乱れるのは、大人でも普通に起きることです。仕事で失敗した日、その後の会議に集中できた記憶があるでしょうか。切り替えは、子どもだけに求めるには少し重い技術です。

試合中は、まず落ち着ける言葉を

ミスの直後に技術的な指摘をしても、頭には入りにくいものです。試合中に声をかけられる場面なら、「大丈夫」「次いこう」くらいのシンプルな言葉のほうが届きやすいでしょう。

ただし、これも保護者席から大声で言うと、かえって注目を集めてしまうこともあります。声かけの距離感については少年野球の試合での親の声かけ・応援マナーで触れていますので、参考にしてみてください。

「次」を一緒に考える

落ち着いたあとで、次にどうするかを一緒に考える時間を持つのはよいことだと思います。ここでのコツは、親が答えを言わないことです。

「次、同じ打球が来たらどうする?」と聞いてみる。子どもなりの答えが返ってきたら、それを否定しない。前述のJOCのセミナーでも、親の関わりを「教える」から「認める・任せる」へ移していくという方向性が語られていました。自分で考えた答えのほうが、次の場面で思い出しやすいはずです。

ミスは、なくならないものだと共有しておく

野球は、そもそもミスの多い競技です。打率3割なら10回のうち7回は打てていない計算になりますし、プロの試合でもエラーは起きます。

このことを、ふだんから家で話しておくのは意味があるかもしれません。「ミスは起きるもの」という前提が家族で共有されていると、実際にミスをした日の帰り道の空気が変わります。

「引きずる時間」は、だんだん短くなっていくもの

今日は一日中落ち込んでいた子が、来年には試合が終わるころには忘れている——そういう変化は、成長とともに起きることがあります。切り替えの早さは、その子の価値とは関係ありません。今すぐ切り替えられないことを問題視するより、時間がかかる子なのだと受け止めて、待ってあげるほうがよい場合も多いように思います。

こんなときは専門家に相談を

ここまで、家庭でできることを中心に書いてきました。ただし、家庭だけで抱えないほうがよい場面もあります。この章がこの記事でいちばん大事な部分かもしれません。

こんな様子が続くときは、専門家に相談してください

次のような様子が続いている場合は、家庭だけで様子を見ずに、専門家に相談することをおすすめします。

・食欲が極端に落ちている、食べられない日が続く
・眠れない、夜中に目が覚める、朝起きられないといった睡眠の変化が続く
・野球以外の場面でも元気がない(学校、友達との時間、家での様子)
・頭痛や腹痛など体の不調が続く、試合前になると必ず具合が悪くなる
・急に口数が減った、好きだったことに興味を示さなくなった
・「行きたくない」と言うようになった、理由をうまく言えない

文部科学省や日本学校保健会の資料でも、子どもは自分の気持ちを言葉にするのが難しく、心の問題が行動の変化や頭痛・腹痛などの体の症状として現れることが多いという趣旨が示されています。だからこそ、周りの大人が普段との違いに気づくことが大切だとされています。

なお、ここに挙げたのは「気にかけたほうがよい様子」であって、診断の基準ではありません。当てはまるからといって何かの病気だということではなく、逆に当てはまらなくても心配なことがあれば相談して構いません。判断は、実際にお子さんに会える専門家にゆだねてください。

どこに相談すればよいか

厚生労働省が公開している保護者・教職員向けのページ「こころもメンテしよう」では、子どもの様子が気にかかるときの相談先として、次のようなところが挙げられています。

相談先 どんなところか
担任の先生 まずの窓口になります。家庭では見えない学校での様子を聞けることもあります。
スクールカウンセラー 子どものこころの問題の専門家です。学校に配置されている場合と、定期的に巡回している場合があります。担任の先生を通じてつないでもらえます。
養護教諭(保健室の先生) 体の不調の相談から入りやすく、相談に対応してもらえます。
医療機関 体の症状が続くときや、専門的な対応が必要なとき。小児科やこころの専門の診療科など。

同ページでは、本当に専門的な相談が必要か迷っている場合や、子どもが相談に消極的な場合は、まず家族だけでスクールカウンセラーや養護教諭に相談してみるのもひとつの方法だという趣旨のことも書かれています。「相談するほどのことかどうか分からない」という段階でも、大人だけで話を聞いてもらえるということです。ここは知っておくと心強いのではないでしょうか。

また、スポーツのメンタル面については、スポーツメンタルトレーニングを専門とする指導士や、地域のスポーツ医科学センターなどに相談できる場合もあります。お住まいの地域で利用できる窓口は、自治体のスポーツ担当部署などに問い合わせてみるとよいでしょう。

睡眠の変化には、とくに気をつけて

前出のスポーツ安全協会の資料では、子どものメンタルヘルスを考えるうえで睡眠にとくに注目しています。平日と休日で寝る時間が大きくずれないこと、就寝前のスマートフォンの使用を控えること、暗い環境で眠ることなどが挙げられています。また、寝だめはできず、過去の睡眠不足を解消することしかできないという趣旨の説明もされています。

同資料では、朝に「よく眠れた?」と聞くことを習慣にすると、子ども自身も心身の変化に気づきやすくなるという考え方が紹介されています。試合の話をしなくても、これなら毎朝聞けます。日々の観察の入り口として、取り入れやすい方法かもしれません。

心配なのは「野球の場面だけかどうか」

ひとつの目安として、その様子が野球の場面だけに出ているのか、それ以外の場面にも広がっているのかは、見ておきたいところです。

試合の日だけ少し緊張している、というのと、学校でも家でも元気がない、というのでは、意味合いが変わってきます。後者のように生活全体に広がっている場合は、早めに相談するほうが安心です。もちろん、これも素人判断の目安にすぎませんので、迷ったら相談する、で構いません。

「野球が楽しい」に戻れることが、いちばん大切

最後に、少し引いたところから書かせてください。

今は、試合に出るためだけの時間ではありません

少年野球の時期は、その子の人生のなかで見ればほんの数年です。この数年で結果が出なかったとしても、野球を続ける道はその先にもあります。逆に、この数年で野球が嫌いになってしまったら、そのあとの選択肢は狭くなります。

JSPOの「NO!スポハラ」活動でも、本来楽しいはずのスポーツが楽しくなくなってしまうことが問題として扱われています。「また来週も行きたい」と思えているかどうか——これは、打率よりもずっと長い目で効いてくる指標なのではないかと思います。

親が焦っていると、子どもに伝わります

子どもは、大人が思っている以上に親の表情を見ています。試合を見ている親が険しい顔をしていれば、それは伝わります。声に出さなくても伝わります。

だからこそ、親自身が「勝ち負けから少し離れる」ことにも意味があります。難しいことですが、応援席で結果を追いすぎず、その子が一生懸命やっている姿を見る。それができると、子どもの側も少し肩の力が抜けるかもしれません。

成長のペースは、それぞれ違います

体が大きくなる時期も、技術がかみ合う時期も、緊張と付き合えるようになる時期も、子どもによってまったく違います。今できないことが、半年後にはできるようになっていることもあります。

そして、そもそも「本番に強い」ことだけが野球の価値ではありません。チームメイトと過ごす時間、続けたという経験、うまくいかない日をやり過ごした記憶——そういうものも、確かにその子の中に残っていきます。

やめたいと言われたら

もし子どもが「やめたい」と言い出したとき、すぐに引き止めるより、まずは理由を聞ける関係でありたいものです。緊張がつらいのか、人間関係なのか、単に他のことがやりたいのか、疲れているだけなのか。理由によって、できることは変わります。

そのときに大事なのは、親ががっかりした顔をしないことかもしれません。がっかりされると分かっていると、子どもは本当のことを言えなくなります。話してもらえるかどうかが、まず入り口です。

まとめ

長くなりましたので、大切なところを整理します。

試合で力を出しきれない我が子を見るのは、親にとってもつらい時間です。「何とかしてあげたい」と思うからこそ、この記事を読んでくださったのだと思います。

けれども、親にできるのは、その子の代わりに打席に立つことではありません。打てなかった日にも変わらず迎えてあげること、緊張したことを責めないこと、そして気になる様子が続くときには一人で抱えずに専門家に相談すること。できるのは、そのくらいかもしれません。でも、そのくらいが、たぶんいちばん効きます。

緊張しながらでも打席に立ったこと。それ自体が、すでに立派なことです。そこを見てくれている人が家にいる——子どもにとって、それ以上に心強いことはないのではないでしょうか。

試合の日の「声かけ」を見直してみませんか

緊張との付き合い方は、応援席からの言葉ひとつでも変わります。試合中の声かけと応援マナーについて、具体的にまとめました。

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